Salesforce Shieldの全機能を解説|導入手順から価格・活用事例までセキュリティ強化を完全サポート

この記事でわかること
- Salesforce Shieldとは何か?標準セキュリティ機能との違い
- Salesforce Shieldの4大機能(暗号化・ログ監視・監査履歴・情報漏洩対策)の仕組みと活用方法
- Salesforce Shield導入に向けた要件整理と運用設計のステップ
- 金融・医療・教育など業界別のSalesforce Shield活用事例

執筆者 代表取締役社長 / CEO 杉山元紀
Salesforce活用におけるセキュリティについてお困りごとはプロにご相談ください
- Salesforce標準機能のセキュリティだけでは不十分だと感じる
- Salesforceを使っていて内部不正や情報漏洩、コンプライアンスを確認したいがどうすればいいかわからない
- Salesforce Shieldを導入を検討しているが、社内展開までサポートが欲しい
多くの企業で利用されているSalesforceですが、機密性の高い業種や業務では「標準セキュリティ機能だけで本当に十分なのか?」という疑問を持つ担当者もいます。そのようなセキュリティニーズに応えるために提供されているのが「Salesforce Shield」です。
Salesforce Shieldはデータの暗号化、操作ログの取得、項目監査証跡、AIによる情報漏洩対策といった高度なセキュリティ機能を備えたアドオンサービスであり、コンプライアンス強化や内部不正の防止を支援します。
本記事ではSalesforce Shieldの導入手順から価格・活用事例までを徹底解説します。特に金融・医療など厳格な要件が求められる業界において、Salesforce Shieldがどのように導入・活用されているのかを知ることで導入判断の参考になるはずです。セキュリティ強化に向けたSalesforce Shield導入を検討されている方は、ぜひ本記事をご覧ください。
まずSalesforceについて詳しく知りたい方はこちらの記事をまずご覧ください。
参考:Salesforce(セールスフォース)とは?製品群や機能、メリット・デメリットを簡単に解説!
目次
Salesforce Shieldとは何か
Salesforceは企業の業務を支えるクラウドCRMとして広く利用されていますが、機密性の高い業種や情報を扱う企業においては標準搭載のセキュリティ機能だけでは不十分と感じる場面もあります。特に法規制やガイドラインへの準拠が求められる分野では、より強固で柔軟なセキュリティ対策が不可欠です。
こうした高度な要件に対応するためにSalesforceが提供しているのが、アドオン型のセキュリティサービス「Salesforce Shield」です。本章ではSalesforce Shieldの全体像と標準機能との違い、さらに導入に適した業種や業務要件について解説します。
Salesforce Shieldの概要
Salesforce ShieldはSalesforceプラットフォーム上のデータに対するセキュリティ・監査・可視化機能を強化するための有償アドオンです。主に4つの主要機能から構成されておりデータ暗号化、操作ログの取得、項目変更の履歴管理、機密情報の自動検出を可能にする機能を包括しています。
これらにより従来のセキュリティ機能では対応しきれなかった内部不正や情報漏洩、コンプライアンス違反といったリスクに対し対応策を講じることができます。Salesforce Shieldは単にシステムの堅牢性を高めるだけでなく、企業における情報ガバナンスや透明性の向上にも寄与する点が大きな特長です。
Salesforceの標準セキュリティ機能との違い
Salesforceにはユーザー認証、IP制限、アクセス権限の設定といった基本的なセキュリティ機能が標準で備わっています。これらの機能だけでも一般的な業務であれば十分にセキュリティ環境を構築することが可能です。
しかしながら保存データの透過的な暗号化や、ユーザーの操作履歴を長期にわたって詳細に記録すること、特定の項目の変更履歴を数年間にわたり保持するといった高度な要件には対応できません。またAIを活用した個人情報の自動検出といった機能も標準では提供されていません。
これに対してSalesforce Shieldでは保存データを暗号化する「プラットフォーム暗号化」やAPIアクセス・レポート出力などの詳細な操作ログを取得できる「イベントモニタリング」、項目単位で変更履歴を記録・追跡できる「項目監査履歴」、さらにAIによる情報漏洩リスクの自動検知が可能な「Einstein Data Detect」といった機能が搭載されています。
これらを活用することで内部不正の抑止やコンプライアンス要件への対応をより高い精度で実現できます。
参考:Salesforceの項目レベルセキュリティとは?設定方法や「参照可能」・「参照のみ」の違いについて解説
Salesforce Shield導入前に知っておきたい業種・業務要件
Salesforce Shieldはすべての企業に必要なわけではありませんが、一定の業務特性や業界背景を持つ組織にとっては導入が強く推奨されるツールです。たとえば金融機関であればFISC(金融情報システムセンター)などが定める厳格なセキュリティガイドラインに対応する必要があります。
また医療機関や製薬企業においてはHIPAAやGDPRといった国際的な個人情報保護法への準拠が求められ、患者情報の機密保持が最優先事項となります。教育や公共といった分野でもログの記録義務や外部監査への対応など情報に関する責任が重いため、ログ取得やデータ暗号化といった機能の活用が欠かせません。
さらにSaaS企業やコンサルティング業のように顧客企業の機密データを扱う業態では、情報漏洩のリスクに対する説明責任や安全性の担保が競争力や信頼性にも直結するため、Salesforce Shieldの導入が実務レベルで検討されています。
このようにSalesforce Shieldの導入は単なるセキュリティ強化にとどまらず、ガバナンスや対外的な信用にも影響を与える重要な施策であると言えます。
Salesforce Shieldの4大機能の解説と活用方法
Salesforce Shieldはクラウド上でより高度なセキュリティ管理を実現するために設計された、4つの中核機能を備えています。それぞれの機能はセキュリティの異なる側面にアプローチしており、企業ごとの業務要件やリスクプロファイルに応じた組み合わせが可能です。
この章では各機能の概要と実際の活用方法、導入時に留意すべきポイントまでを解説していきます。
プラットフォーム暗号化(Platform Encryption)
Salesforceに保存されるデータを暗号化することで、万が一の情報漏洩リスクを大幅に軽減できるのがプラットフォーム暗号化です。データベースに格納される情報そのものを暗号化することで物理的なアクセスによる不正閲覧や、社内からの不正取得といった事態に備えることができます。
特に金融・医療分野においては暗号化が法令順守の要件となっているケースも多く、導入意義は非常に高いと言えるでしょう。
暗号化できる項目と制限
プラットフォーム暗号化はSalesforce内の多くの項目に適用可能ですが、すべてのデータ型を対象とできるわけではありません。例えば数式項目や外部参照ID、一部の検索・集計に使用される項目などは暗号化の対象外となることがあります。
また暗号化を適用するとレポートやビュー、検索時のパフォーマンスなどに一部の機能に制限が生じるため、対象項目を慎重に選定することが求められます。特に日常業務で頻繁に利用される項目については、業務影響の検証を事前に行うことが重要です。
暗号鍵の管理と運用の流れ
暗号化を機能させる上で欠かせないのが鍵の管理です。Salesforceでは暗号鍵の管理方式として、Salesforceが自動的に生成・保持する「Tenant Secret」と顧客自身が独自に鍵を持ち運用する「Bring Your Own Key」の2つの選択肢が提供されています。
「Tenant Secret」はSalesforceが標準で提供する暗号鍵です。この方式を選択することで暗号化の導入を迅速に進めることが可能になり、設定の複雑さを軽減しながら保存データのセキュリティを一定レベルで確保できます。
一方で「Bring Your Own Key」では自社のセキュリティポリシーに則った鍵管理が可能で、鍵のローテーションや廃棄、有効化・無効化のタイミングをすべて自社のコントロール下に置くことができます。これにより厳格なコンプライアンス基準への対応や特定業界における外部監査要件の充足が実現します。
このようにTenant SecretとBYOKのいずれを選択するかは、自社のセキュリティ要件や運用体制に応じて適切に判断することが重要です。
イベントモニタリング(Event Monitoring)
イベントモニタリングはSalesforceにおけるすべてのユーザーアクションを記録し、後から詳細な分析を行うことができるログ監視機能です。
ユーザーの操作履歴を把握することで不審な動作を早期に発見できるほか、通常の業務フローにおけるボトルネックや業務過負荷の発見にも役立ちます。企業にとっては日々の業務活動を見える化するセキュリティ対策であると同時に、業務改善の手がかりを得るツールにもなります。
取得可能なログの種類と内容
イベントモニタリングではログイン、ログアウト、APIアクセス、レポートのエクスポート、ページの閲覧など30種類以上のイベントログを取得できます。これらのログにはユーザー名、IPアドレス、操作の種類、発生時刻といった詳細な情報が含まれ、後からの追跡や分析が容易です。
例えば不審なIPアドレスからのアクセスや短時間に連続したAPIコールが確認された場合、不正アクセスやシステムの悪用が疑われる兆候として捉えることが可能です。
SIEMやSplunkとの連携方法
取得したログはCSV形式で出力されるため、自社で利用している外部のSIEMツールに取り込むことができます。代表的な連携先としてはSplunkがあり、Salesforceの操作ログをSplunk上でダッシュボード化したり、リアルタイムアラートの設定を行ったりすることが可能です。
APIによる自動取得設定も行えるため、Salesforceだけにとどまらない包括的なセキュリティ監視基盤を構築することができます。
内部不正対策の具体例
イベントモニタリングを活用することで内部不正の兆候を早期に察知し、迅速な対応が可能になります。
例えば通常は業務時間外にアクセスしないはずのユーザーが深夜にログインしてレポートをエクスポートしていた場合、その行動は内部情報の持ち出しリスクとして分析対象になります。また業務上不要なAPIアクセスが頻繁に行われている場合も、システムの悪用や資格なきアクセスの可能性を疑うべきです。
これらのログを定期的にチェックし、ルールベースでアラートを設定することで人的リスクの軽減に繋がります。
項目監査履歴(Field Audit Trail)
Salesforceにおいてデータの整合性や改ざん防止、監査対応を実現するためには項目単位での履歴管理が不可欠です。
項目監査履歴は特定の項目に対して行われた変更履歴を長期的に保存できる機能であり、標準機能の限界を超えた高度な監査対応を可能にします。特に履歴の長期保持が義務付けられている業種では、導入メリットが非常に大きい機能です。
保持可能な履歴件数と期間
通常Salesforceの履歴保持機能では1項目あたりの保存件数は20件、保存期間は18ヶ月に制限されています。これでは監査要件を満たせないケースも少なくありません。
項目監査履歴を導入することで最大10年間、数百万件の履歴を保持することが可能となり、監査の信頼性と持続性が大きく向上します。この長期履歴は内部統制の強化や第三者監査対応時のエビデンス確保において極めて有効であり、特に金融や公共領域での評価が高いです。
対象項目とその設定方法
項目監査履歴を利用するには、監査対象とするオブジェクトおよび項目を明示的に設定する必要があります。設定はSalesforceのオブジェクトマネージャーから行うことができ、該当する項目に対して監査証跡の有効化を適用します。
また複数のオブジェクトや項目にまたがって一括で設定を行いたい場合には、APIを用いた設定スクリプトの活用が有効です。監査の設計段階では「どの項目を、何の目的で、どれくらいの期間保存するのか」という運用ポリシーを明確にしておくことで、余分なログを削減し必要な情報のみを効率よく記録できます。
Einstein Data Detect
企業が扱うデータの中には顧客の氏名や連絡先、契約内容といった個人情報が多数含まれます。Einstein Data Detectはこれらの機密情報をAIが自動的に検出し、情報漏洩リスクを未然に防ぐ機能です。
Data Loss Prevention(DLP)の観点から管理部門や法務部門にとって強力な支援機能であり、Salesforce内のデータセキュリティを一段と高めるものとなっています。
AIによる自動検出の精度
Einstein Data DetectではSalesforceが提供する事前学習済みのAIモデルを用いて氏名、メールアドレス、電話番号、クレジットカード情報、社員IDなどの個人識別情報(PII)や企業機密に該当するテキストパターンを高い精度で検出します。
AIは単なる文字列の一致ではなく文脈やデータ型の整合性を加味して判定を行うため、誤検出や検出漏れを最小限に抑えられます。さらに検出結果に基づいてスコアリングを実施し、リスクの高いデータに対して優先的な対応ができるよう設計されています。
導入手順と検出ルール設定
Einstein Data Detectの導入はまず機能のアクティベーションから始まります。その後スキャン対象とするオブジェクト・項目を選定し、検出ルールを設定します。検出ルールには対象とするデータタイプや条件、通知方法などが含まれます。例えば「メールアドレス形式に一致する文字列が5件以上連続で保存された場合に警告」といったルールが設定できます。
また検出後に自動的にSlackやメールにアラートを送信する設定を加えることで、運用部門がリアルタイムに対応できる体制を構築することが可能です。
参考:SalesforceとSlackを連携するには?設定方法や活用メリットについて紹介
個人情報保護(PII)対策としての有効性
Einstein Data DetectはGDPRやCCPAといった国際的なプライバシー法規制に対応する上でも有効です。これらの法規制では個人情報を扱う組織に対して、その取扱状況の可視化とリスク評価が求められます。
Einstein Data Detectを利用することでSalesforce上に存在するPIIの場所や偏り具合を可視化でき、管理台帳の作成や外部監査対応に活用することができます。また検出対象を定期的に再スキャンし変化を追跡することで、データの動的な管理も可能になります。こうした運用は組織全体のデータガバナンス体制の強化に直結します。
Salesforce Shieldの導入ステップと運用フロー
Salesforce Shieldは高度なセキュリティ機能を提供する一方で、導入・運用に際しては多くの準備が必要です。特に機能ごとに設定作業が分かれており、導入後も定期的な運用・改善が必要なため事前の設計と関係者の合意形成が不可欠です。
本章では導入前の準備事項から本番環境への反映、導入後の運用管理までを解説します。
Salesforce Shield導入前に確認すべき要件と準備事項
Salesforce Shieldの導入は、導入前の準備段階でどれだけ具体的かつ実効的な要件整理ができるかが成功と失敗を分ける大きな要因となります。特に暗号化やログ管理、監査証跡といった高度なセキュリティ施策は、対象データの機密性や取り扱う業務の性質によって設計が大きく変わります。
例えば金融・医療・公共といった法規制の厳しい業界では外部ガイドラインへの準拠が必須となり、技術面だけでなく法務・監査部門を含めた部門横断的な計画が求められます。
本章ではSalesforce Shield導入に先立ちどのような前提条件を確認し、何を整備すべきかを4つの視点から整理していきます。
Salesforce Shield導入目的の明確化とユースケース定義
導入にあたり最初に行うべきは、なぜSalesforce Shieldが必要なのかという目的の明確化です。例えば内部不正対策を強化したいのか、あるいは規制対応としてデータ履歴の長期保存が求められているのかなど、具体的なユースケースを定義することで導入対象機能や設計方針が決まりやすくなります。
また経営層からの理解と支援を得るうえでも、ユースケースの明文化は有効です。
Salesforceエディションおよびライセンスの確認
Salesforce ShieldはSalesforceのすべてのエディションで利用できるわけではなく、原則としてEnterprise Edition以上が対象となります。
またShieldの各機能はアドオン形式で提供されており、ライセンスごとの価格体系や制限事項を事前に把握しておくことが必要です。見積もり段階で想定ユーザー数に基づく費用試算を行い必要な機能に絞って導入することで、コストパフォーマンスを最適化できます。
組織体制とデータ分類・機密レベルの整理
導入にあたっては社内の情報資産を整理し、どのデータがどの程度の機密性を持つかを明確に分類する必要があります。
例えば営業情報、人事情報、財務データなどのカテゴリごとに、暗号化や監査の対象を定義します。またそれぞれのデータに対して誰がアクセス可能で、どのような操作が許されているかといった運用体制を見直すことも重要です。
コンプライアンス要件・業界ガイドラインの洗い出し
金融庁ガイドライン、FISC、安全対策基準、HIPAA、GDPRなど、業界ごとの法規制やガイドラインへの準拠も忘れてはなりません。
これらの外部要件を導入設計に反映することで監査時の指摘リスクを低減し、社内のセキュリティ評価を高めることができます。法務部門や情報セキュリティ部門と連携し、要件をリストアップしたうえで導入範囲に落とし込む作業を推奨します。
Salesforce Shield導入手順の流れ
Salesforce Shieldの導入は単にライセンスを契約すれば即座に使い始められるものではなく、実際の環境設定に至るまでに複数のフェーズを経る必要があります。
導入の現場ではシステム担当者やセキュリティ管理者が協働し、事前の設計から本番反映までを段階的に進めていくことが求められます。本節では各フェーズで行うべき内容と注意点について解説します。
設計フェーズ:構成方針と対象範囲の決定
最初に取り組むべきはSalesforce Shieldの機能ごとに活用方針と対象範囲を明確にする設計フェーズです。
プラットフォーム暗号化をどのオブジェクト・項目に適用するか、項目監査履歴の記録対象と保持期間はどう設定するか、イベントモニタリングのログ取得範囲と活用計画はどうするかなど個別機能ごとに具体的な方針を立てる必要があります。
また設計段階では業務部門からのヒアリングを通じて、実業務への影響を把握することも重要です。特に暗号化設定はシステム動作に制限を及ぼす可能性があるため、現場の業務フローとの整合性を確認しておくことが求められます。
設定フェーズ:Salesforce上での初期設定
設計が固まった後はSalesforceの管理画面や開発コンソールを用いて、以下の具体的な初期設定を進めていきます。
・プラットフォーム暗号化:暗号化対象の項目を選択し、鍵管理ポリシーに基づいてTenant SecretまたはBYOKを設定
・イベントモニタリング:必要なログ種別を有効化し、ログの保存先や取得間隔を定義
・項目監査履歴:対象オブジェクト・項目に対して監査証跡を有効にする設定
・Einstein Data Detect:対象データのスキャン設定やアラート発火条件、通知チャネルの設定
テスト・検証フェーズ:本番適用前の動作確認
設定完了後すぐに本番環境へ反映するのではなく、サンドボックス上での検証フェーズを必ず設ける必要があります。テストでは暗号化による検索・レポート機能への影響や、監査ログの取得内容と粒度、イベントログの整合性、アラート通知の発生タイミングなど設定が意図した通りに動作するかを重点的に確認します。
また業務部門に協力を仰ぎ実際の業務シナリオに基づいたテストケースを実行することで、思わぬ影響や設定漏れの発見につながることがあります。検証結果は記録に残し導入プロジェクト内で承認を得たうえで、次のフェーズに進む体制を整えましょう。
本番環境への反映と社内展開
テストが完了したらいよいよ本番環境への反映となります。この段階では設定反映作業に加えて、全社への情報共有や運用体制の整備も含まれます。例えばプラットフォーム暗号化やイベントモニタリングの導入に伴い社内でのポリシーや操作ルールが変更される場合には、それらをまとめた運用マニュアルの整備と対象部門への説明会が必要です。
さらにEinstein Data Detectでアラートが発生した場合の対応フローや、項目監査履歴で記録された監査データの取得・保存の手順も明文化しておくことで、属人的な対応を避け安定した運用を実現できます。導入初期は不明点や調整事項が出ることもあるため、運用開始後1〜2ヶ月間はフォローアップ期間としておくとスムーズです。
Salesforce Shield運用時に注意すべきポイント
Salesforce Shieldの導入は設定を終えて完結するものではありません。実際には運用段階で発生するさまざまな制約や課題に対応していくことが、導入効果を最大化するために必要です。Salesforce Shieldは強力なセキュリティツールですが、その効果は適切な設定・維持管理と社内運用ルールの徹底によって初めて発揮されます。
本章では特に注意しておくべき運用上のポイントについて詳しく解説します。
暗号化対象の制限と推奨設定
プラットフォーム暗号化を利用する際には、暗号化の対象となる項目の選定が極めて重要です。なぜなら一部の項目では暗号化を適用することにより、検索結果の表示遅延やレポートの利用制限などが発生するためです。特に数式項目や一意制約のあるフィールドに対して暗号化を適用すると、想定外の動作不良につながることもあります。
そのため対象項目は重要情報に限定しつつテスト環境での事前検証を徹底することが重要です。また暗号化ポリシーは定期的に見直しを行い、不要になった項目や業務フローの変化に応じた調整を怠らないことが継続的な運用安定化に寄与します。
イベントログの保持期間と分析体制
イベントモニタリングではログの保持期間に制限があり、CSV形式でのエクスポートや外部ストレージへの転送を前提とした運用が求められます。そのためログの保存期間や取得対象の優先順位を定め、必要なログだけを効率的に保存・分析できるように設計しておく必要があります。
またログを分析する体制も重要です。取得したログを定期的にレビューし、不審な動作やトレンドを抽出できるセキュリティ運用担当者が存在しているかどうかがSalesforce Shieldの効果を左右します。
場合によってはSplunkなどのSIEMツールと連携し、可視化ダッシュボードの作成や自動アラートの設計を行うことでセキュリティ対応力を一段と強化することが可能です。
監査データの運用とバックアップ方針
項目監査履歴は必要なときに迅速かつ正確に参照できるよう整備されていることが重要です。特に外部監査や内部監査が実施される場合、監査データの取得・提出のフローが整理されていないと対応に遅れが生じ、コンプライアンス上のリスクを抱える可能性があります。
そのため定期的なエクスポートとバックアップポリシーの策定が欠かせません。監査対象項目ごとに保存形式や取得頻度をあらかじめ決めておき、災害対策の観点からも多重保管を検討することが望ましいです。さらに不要な監査項目の削減や保存期間の見直しを行うことで保守コストの最適化にもつながります。
ユーザー教育とセキュリティ運用ルールの徹底
Salesforce Shieldの導入により従来の業務フローや操作ルールに変更が生じることがあります。例えば「保存されたデータは暗号化されているため、特定の検索が使えなくなる」といった仕様変更に対し、ユーザーがその背景や理由を理解していなければ業務トラブルや混乱の原因となるでしょう。
これを避けるためには導入初期段階でのユーザー研修や操作マニュアルの配布が不可欠です。また情報システム部門に限らず、セキュリティポリシーの周知・徹底を全社的に行う必要があります。加えて新入社員や異動者への継続的な教育プログラムを整備し、属人的な運用にならないようルールを明文化しておくことが重要です。
Salesforce Shield導入後の効果検証と改善方法
Salesforce Shieldの導入はゴールではなく、継続的に運用していくことに価値があります。どれほど強力な機能を備えていても使い方が間違っていたり、運用が属人化していたりすれば十分な効果を得ることはできません。そのため導入後の定着状況を可視化し、課題を洗い出して改善を図る仕組みが不可欠です。
この章では効果検証と改善のために取り組むべき具体的な視点について解説します。
セキュリティポリシーの適合状況チェック
最初に確認すべきはSalesforce Shield導入時に設定した目的やセキュリティポリシーが、実際の運用と整合しているかどうかです。例えば「重要な項目に対して暗号化が適切に適用されているか」「ログが想定通り取得・保管されているか」「アラート設定が有効に機能しているか」などを定期的にレビューします。
このチェックはシステム部門だけでなくセキュリティや法務、現場の業務担当者など複数部門と連携して実施するのが理想です。また導入当初に立てたKPIがある場合には、達成状況を数値で示すことで経営層への報告や改善の意思決定にも役立ちます。
イベントログからのインシデント傾向分析
イベントモニタリングで蓄積された操作ログを活用することで実際にどのような操作が行われているか、不審なアクセス傾向がないかといった分析が可能です。ログを単に保管するだけでなくダッシュボードやレポート機能を活用して傾向を可視化し、変化にいち早く気づく仕組みを整えることが重要です。
さらにこれらの傾向分析の結果を設定に反映し、アラート条件の変更やユーザー権限の見直しなど運用改善を積極的に行うことで、Salesforce Shieldのセキュリティレベルを高く維持することができます。
第三者レビューと監査対応の準備
監査に耐えうる記録整備と運用体制の構築は、導入後の信頼性を確保するうえで極めて重要です。例えば項目監査履歴の履歴データが適切に取得・保管されていることを証明するためのレポートや、イベントモニタリングのログを活用したアクセス記録一覧などは監査対応において高く評価されます。
そのため定期的に第三者視点でのレビューを実施し、設定ミスや運用の形骸化が起きていないかをチェックします。
Salesforce Shieldの価格とライセンス体系
Salesforce Shieldは強力なセキュリティ機能を提供しますが、その分ライセンス体系や価格も複雑になりがちです。導入前に正確な費用構成を把握しておくことは不要な出費や設定ミスを避けるうえで非常に重要です。
本章ではSalesforce Shieldのライセンス体系と価格構造、費用対効果の考え方、そして契約時に押さえるべきポイントについて詳しく解説します。
Salesforce Shieldのライセンス体系
Salesforce Shieldはプラットフォーム本体に標準で含まれているわけではなく、Enterprise Edition以上の契約を前提としたアドオン型の有償ライセンスです。ライセンスはSalesforce Shield全体としてパッケージで提供される場合と特定機能ごとに個別契約が可能な場合の2パターンがあり、組織のニーズに応じて選択できます。
またライセンスはユーザー数に応じた課金モデルを採用しており、利用ユーザーが多いほど月額・年額の料金が高くなります。したがって全社員に一律で適用するよりも必要な部門・職種に限定して付与することでコストを最適化できます。
コストシミュレーションと費用対効果
Salesforce Shieldの費用は契約する機能やユーザー数、導入範囲によって変動します。そのため導入前にはSalesforceの営業担当やパートナーと相談しながら、自社のニーズに合ったライセンス構成と費用の見積もりを行うことが重要です。
一方で費用対効果の視点も欠かせません。もし情報漏洩などの重大なインシデントが発生した場合、その損害は数千万円から数億円にのぼることもあります。Salesforce Shieldを導入することでこうしたリスクを未然に防ぐことができ、結果としてコスト以上の価値をもたらします。
また監査対応の効率化やコンプライアンス体制の強化など、目に見えにくいメリットも大きな魅力です。
Salesforce Shield契約時の注意点とポイント
Salesforce Shieldの契約にあたって機能単位の有効化範囲や対象ユーザーの明確化、サンドボックス環境での利用可否、ライセンスの変更タイミングといった運用面の制約について事前に確認しておく必要があります。
また将来的な利用拡大を見越して段階的に導入することも検討しなければいけません。初期はプラットフォーム暗号化とイベントモニタリングから始め、運用が安定してきたタイミングで項目監査履歴lやEinstein Data Detectを追加するというアプローチもコストと運用負荷のバランスを取りやすい方法です。
また契約時には導入・定着支援まで対応できるSalesforceパートナーとの協業を視野に入れることで、ライセンス選定の精度を高めるとともに導入後のフォロー体制も確保できます。
Salesforce Shieldの導入事例と業界別ユースケース
Salesforce Shieldは業種や業務に応じて導入目的や活用方法が大きく異なるため、実際の導入事例やユースケースを参考にすることが導入時には有効です。
特に厳格な情報管理が求められる業界ではSalesforce Shieldの各機能がどのように現場に定着しどのような成果を上げているかを具体的に把握することで、自社における導入判断や活用イメージが明確になります。本章では3つの業界での事例をご紹介します。
金融業界|監査証跡と不正対策でコンプライアンスを強化
金融業界ではFISC(金融情報システムセンター)や金融庁のガイドラインに基づき、システム操作の履歴保存や不正アクセスへの対応が義務付けられています。そのためSalesforce Shieldの「項目監査履歴」や「イベントモニタリング」が非常に重視されています。
ある国内銀行では顧客情報を管理するSalesforce環境において各担当者による項目変更を正確に記録し、監査部門が必要な時点で証跡を確認できる体制を構築しました。加えてイベントログを活用し、不自然な時間帯のログインやレポートの不審な出力をアラート検知することで、内部不正の抑止にもつながっています。
このようにShieldの導入によって外部監査の信頼性が向上するとともに、リスク管理の高度化が実現しました。
医療業界|患者データの暗号化とPII保護事例
医療機関では個人情報保護が極めて重要なテーマであり、HIPAAなどの国際的規制に準拠したデータ管理が求められます。その中で特に重視されるのが「プラットフォーム暗号化」と「Einstein Data Detect」の活用です。
ある総合病院では電子カルテ情報や診療履歴をSalesforce上で一元管理しており、Salesforce Shieldによってこれらのデータを暗号化し、特定の医療従事者のみにアクセス制限を設定しています。さらにEinsteinによるDLP(情報漏洩防止)機能を併用することでPIIの検出とアラート通知を自動化し、万が一の漏洩リスクを早期に把握できる体制を整えました。
この結果個人情報管理体制の整備が評価され、病院全体のセキュリティポリシーがより厳格かつ実効的なものになったと報告されています。
製造・教育業界|設計図や成績情報の保護方法
製造業や教育機関では業務において高度な機密情報を取り扱うケースが多く、それらのデータ保護と内部統制の強化が重要課題となっています。
ある製造業では製品設計に関する図面や仕様情報をSalesforceで管理しており、それらのデータを「プラットフォーム暗号化」で暗号化した上で、担当者ごとのアクセス制御を実施しています。また外部取引先とのデータ連携に備え「イベントモニタリング」でファイル出力履歴をトラッキングし、重要情報の持ち出しが発生した際には即時アラートが送信される仕組みを構築しました。
教育業界においては学生の成績データや学習履歴を管理するシステムにSalesforce Shieldを導入し、「項目監査履歴」によって成績修正の履歴を全件保存しています。これにより教職員の操作ミスや不正操作が可視化され、教育委員会や保護者への透明性が確保されています。
Salesforce Shieldの最新情報と今後の展望
テクノロジーの進化に伴いクラウド上でのデータ管理やセキュリティ対策も日々変化しています。Salesforce Shieldも例外ではなく継続的にアップデートが加えられ、より柔軟で高度なセキュリティ管理が可能な製品へと進化し続けています。
本章では直近の主要アップデートである「Shield 2.0」の内容と、AIとの連携による将来的な活用可能性について紹介します。
Shield 2.0のアップデート内容
Spring ’24リリース以降、Salesforce Shieldは「Shield 2.0」として機能強化が図られています。特に注目すべきは操作性とパフォーマンスの向上に重点が置かれている点です。
これまでは「設定画面が分かりづらい」「操作手順が煩雑」といったユーザーの声も多く聞かれていましたが、最新バージョンでは管理者インターフェースが大幅に刷新され、より直感的に設定を行えるようになりました。
またイベントモニタリングにおいてはリアルタイムストリーミングの拡張が進んでおり、ログ取得のタイムラグが最小限に抑えられ、より迅速なインシデント対応が可能となっています。さらに暗号化機能の対象項目が拡大され、これまで制限されていた項目タイプへの対応が進んでいる点も運用の柔軟性向上に寄与しています。
Einsteinとの連携によるセキュリティ強化
今後の展望として特に注目すべきなのがSalesforceのAI機能である「Einstein」とのさらなる連携です。
現時点ではEinstein Data Detectを通じて、PII(個人情報)検出や情報漏洩リスクの可視化が実現されていますが、将来的にはより深層的な脅威予測や異常動作の自動分類・対応といった領域への拡張が見込まれています。
例えばユーザー行動ログのパターンをAIが学習し、通常とは異なる振る舞いが見られた際にリスクスコアを算出して自動的に管理者へ通知を行うという仕組みが実装されれば、セキュリティ管理の高度化だけでなく、人的対応の効率化やゼロトラストモデルへの対応にもつながるでしょう。
まとめ
Salesforce ShieldはクラウドCRMであるSalesforceをより安全かつ柔軟に運用するための強力なセキュリティ強化ソリューションです。本記事ではShieldに搭載された4つの主要機能プラットフォーム暗号化、イベントモニタリング、項目監査履歴、Einstein Data Detectを中心に、その仕組みや導入ステップ、価格、活用事例、そして最新のアップデート動向までを幅広く解説してきました。
標準機能ではカバーしきれない情報漏洩や内部不正、監査要件への対応が求められる企業にとってSalesforce Shieldは単なるオプション機能ではなく、事業の信頼性や継続性を支えるセキュリティ基盤となります。特に金融・医療・公共といった高いセキュリティレベルが求められる業界では導入のインパクトが非常に大きく、競争優位性や法令遵守にも直結します。
導入を検討する際はまず自社の業務要件やリスクの洗い出しから始め、Salesforce Shieldをどのように設計・活用していくかを明確にすることが重要です。その上でパートナー企業と連携しながら段階的かつ無理のない運用体制を構築していくことで、費用対効果の高い導入が実現できるでしょう。
ストラではSalesforceの導入や外部システム連携などはもちろん、現場への定着化支援やチェンジマネジメントまで一貫したSalesforce活用をご支援します。具体的な支援内容や価格についてご興味・ご関心がある方は、ぜひストラへお問い合わせください。
またストラのSalesforce導入支援や定着化支援、開発支援についてさらに詳しく知りたい方はこちらのページで紹介しています。
Salesforce活用におけるセキュリティについてお困りごとはプロにご相談ください
- Salesforce標準機能のセキュリティだけでは不十分だと感じる
- Salesforceを使っていて内部不正や情報漏洩、コンプライアンスを確認したいがどうすればいいかわからない
- Salesforce Shieldを導入を検討しているが、社内展開までサポートが欲しい


執筆者 代表取締役社長 / CEO 杉山元紀
大学卒業後、株式会社TBI JAPANに入社。株式会社Paykeに取締役として出向し訪日旅行者向けモバイルアプリ及び製造小売り向けSaaSプロダクトの立ち上げを行う。
アクセンチュア株式会社では大手メディア・総合人材企業のセールス・マーケティング領域の戦略策定や業務改革、SFA・MAツール等の導入及び活用支援業務に従事。
株式会社Paykeに再入社し約10億円の資金調達を行いビジネスサイドを管掌した後、Strh株式会社を設立し代表取締役に就任。
▼保有資格
Salesforce認定アドミニストレーター
Salesforce認定Marketing Cloudアドミニストレーター
Salesforce認定Marketing Cloud Account Engagementスペシャリスト
Salesforce認定Marketing Cloud Account Engagement コンサルタント
Salesforce認定Sales Cloudコンサルタント
Salesforce認定Data Cloudコンサルタント